マニュアル

数学者にマニュアルというとたいていは計算機ソフトウェアのそれだと思うに違いない。 もちろんここでのマニュアルは そのマニュアルではない。(^^;;; マギラワシイ デダシダ

いつの頃から「マニュアル」というのを聞き出したのかはもう定かではないけれど、それほど前のことではないように思う。 いわく、「防火のためのマニュアル」そして「防火訓練のためのマニュアル」、「防火訓練のマニュアルを作るためのマニュアル」という類いのやつである。 なかには「核分裂臨界の危機的状況を回避するためのマニュアル」なんていうのまで策定が検討されたりしたらしい。 マスコミは

危機に対応できるマニュアルがないから、事故が起るのだ、

マニュアルを作らないものに責任があると騒ぎ立てる。

危機的状況はマニュアルでは記述できないから危機的状況なのだと某S先生もおっしゃってたが、 まことにその通り。 公務員の倫理を守るためのマニュアルなんてのも策定されたりしているらしいが、 そのマニュアルを作るのに多数の公務員を投入する。 ヒマな話である。 いったい

公務員というのは誰のために存在しているのか

をきっと忘れているに違いない。

なんか論点がずれたけど、一番役に立っているマニュアルは某 マ○ドナ○ド のものであろう。 笑顔までがマニュアルに入っていると音に聞く。 で、そのマニュアルが何のためにあるのかをつらつら考えるに、 要するに

それは「人間を機械化する」ためにある。

計算機ソフトウェアのマニュアルがかって不評だったのも、 読んでいるうちに自分が機械になったような気がするのがなんとも我慢ならなかった部分があるように思う。

機械化すると何が良いか? それは生産効率をあげるのである。 この場合はこう、という経験は必要なくなり、適当な道具の導入で 技術が要らなくなる。 例えば、昔は技術職(?)だったスーパーのレジ係が、 バーコードの導入によって単なる接客係に変化するように。

人間を機械の代りに使うのだから、高価には違いないが、 実は人間の仕事がどんどんなくなってるのだ。

昔は職人芸だった列車のダイヤ編成はいまや計算機が片付けてくれると聞く。 (でも京都大学の時間割編成は未だ手動だ。何とかして欲しい。) おにぎりだって機械が握るし、寿司もそうだという話。 他にも工芸品にいたっては機械化の例に枚挙にいとまがない。 西陣の伝統工芸も後継者がいないから機械化して残すんだそうだ。

ま、でも機械が人間のやる非人間的な仕事を片付けてくれ、 人間はより人間的な活動に専念できるのなら、それはそれで良いだろう。 しかしそれが違う。

人間は機械に仕事を奪われた結果、遊んで暮して給料を貰うわけにはいかないので(でも、なんでそれがダメなんだろう?)、 なんかやらなくっちゃいけない。 それでマニュアル作りに精を出す。 最初は暇潰し(?)にやっていたマニュアル作りが、組織を機械化し、 マニュアルがないとやっていけない人間を創り出す。 そのようにして、マニュアルがまた人間を機械化してゆく。

チャペックがロボットという言葉の産みの親らしいが、 その世界はロボット(彼の世界では奴隷だが)を使って人間が高度な創作(あるいは生産的)活動に従事する、 この世は昔のギリシャの時代に戻り(しかし、奴隷はいない、人間は人間として生きていける)、ユートピアがおとずれる、 というようなものだったような気がする。 しかし現実は大多数の人間を機械化することになっているようだ。 ま、もともと

「ユートピア」は「どこにもない場所」を意味する

らしいから、それもしかり。

では、どこをどう間違って現在のようになってしまうのだろうか? その元凶はやはり「経済至上主義」「拝金主義」「効率重視」などといった考え方にあるように思う。 だいたいものが余っている時代に効率を考えるのが間違ってる。 今や病気は「何かが足りない」ために起るのではなく、「何かが余分にありすぎる」ために起るのだ。 これ以上の経済的発展はやはり人間社会を根本的に破壊するのではないだろうか?

やはりこういう社会では切実に数学が希求されているといえるだろう。 それも応用のつかない純粋数学である。

静かに深く数学に想いを致す。

これこそ現代社会を救うひとつの方法ではないだろうか? (ッテ、ムリアリスギ? (^^;;;)

予告: 数学におけるマニュアル化と高等数学の崩壊の予兆
ウーム、ホントカナァ

Mon May 22 19:01:57 JST 2000

マクドナルド化する社会
佐藤先生に教えてもらった。[Sat Jun 10 18:02:35 JST 2000]